ウクライナ生活、ダーチャを買う!

ウクライナ生活、ダーチャを買う!

2003年に創刊された『クウネル』でダーチャを知った時から、おそらく自分の中で「行ってみたい」「やりたい!」「欲しい!」のスイッチは入っていたんだと思います。田舎風で、不便だけれど小さくて可愛らしい家付きの家庭菜園。こんな充実した時間を”ソ連味あふれる”雑貨に囲まれて過ごす週末とは何と素敵なのだ!と当時から憧れを抱きつづけていましたが、それが15年以上を経て実現することになるとは。しかし、夢は夢。現実にはやはり思い通りにいかないこともたくさんあることを身を以て体験していくことになるのでしょう。

ウクライナに移住してからの新しい挑戦の始まりです。

 

 

田舎暮らしを望んで結婚した訳ではなく、結婚当初は住むならキエフしかない!という想いを実現させ、キエフで2年半を過ごしたのですが、住所の問題や子供のことなどもあり、結果夫の故郷に戻る形になり今に至ります。

(ウクライナ生活の経緯はコチラ

2019年秋に再びウクライナへ戻ってすぐに始まった新型コロナウィルスの出現によって、世界の状況は様変わりしてしまった訳ですが、せっかく戻ってきたウクライナで何か新しい、楽しい、興味が湧きそうなことを始めるにはどうすればいいのか。とりあえず、私がここにいることを発信しようと思い、アカウントを作ったまま長らく放置していたtwitterを始めたのが2020年。あれからもう2年も経ってしまいました。。

スームィ市内に以前日本人の男性、後はスームィ市内にある大学に日本人の教授がいらした。という話以外は聞いた事がないので、日本人で定住しているのはもしや私1人?という特異な状況をもっと面白くできないものかと思案し続けて・・

 

 

『そうだ、ダーチャを買おう!』思いつきで物件探し。

 

とにかく、田舎に住むと決めた以上ここでできることを何とか形にしたい。賃貸のアパートでは家具付きが当たり前なので、自分の好みに合う通りにインテリアを整えることが出来ないのは相当なストレスです。それでも何とか妥協できるポイントまで持っていこうとしたのですが、どうしても自由になる自分の所有する空間が欲しい!という想いのほとぼりが冷めることはなく、ウクライナに残る「ソ連味あふれる」素材や雑貨に囲まれた生活を発信していきたい。。とぼんやりして考えていたところに、ポーンと落ちてきたかのようにダーチャという存在を思い出したのでした。これってまさにピッタリじゃないのか!!と頭の中で繋がってしまうと、もう妄想が止まらない。。『そうだ、ダーチャを買おう!』という想いが頭の中でクルクルと周り始め、体全体に浸透するようにワクワクしてしまい、そこからは一直線で具体的に購入する方法をリサーチして行ったのでした。

ソ連時代の村で過ごした記憶を持つ夫にとって、畑での作業は、辛い、汚い、疲れる。というネガティブなイメージしかなく、『ダーチャ、かわいい!』という私の話など鼻で笑う程度。都内に長く住んでいた私が、水道もなく虫もたくさん、舗装されていないガタガタ道の先にあるダーチャがかわいいなんて、ウクライナの現実を知らないから言えるのだ!と言われてしまい、そもそもどうやって物件を探すのかも分からない状況。

そんな中、私が自分で情報を探れることが判明したのです!

 

ウクライナ版の個人売買サイト『OLX』がすごい!

twitterを始めた頃から、私が最も好きなソ連時代の雑貨販売を始めた訳ですが、地方に住みつつソ連雑貨を手に入れるにはネットでの売買がやはり便利です。ウクライナ人は新しいもの、特にデバイスやネット関連に対する興味が高く、既定概念に捉われずに便利なものを自分の生活に取り入れるのが上手な人が多いように感じます。個人売買はリスクがを伴うものの、この「OLX」サイトはメッセージ機能を使用して連絡する手段の他に、個人の電話番号が記載されているので、売手と直接電話連絡できるのがスピーディーでありがたいのです。

支払いの安心設定もあり、国内でも人気のサイト

『OLX発送』という独自の支払い方法があり、売り手がこの機能をオンにしていてくれれば、支払った金額が一旦サイト内に留め置かれ、郵便局や配送会社の窓口で商品を確認した後に支払い完了ができるので安心です。

少し話が逸れましたが、このサイト、何と不動産も扱っているのです。再移住の際の物件探しの時から知ってはいたものの、ダーチャまで扱いがあるとは素晴らしいの一言!

実際にこのサイトを利用したのですが、エリア検索で探して、条件に合いそうな物件に電話して、内見させてもらって、、を幾度か繰り返すことになります。

 

 

『ダーチャ』という存在を知ってから十数年、いよいよ購入の現実味が増す!

「サライ」と呼ばれる倉庫。ダーチャでは古いコンテナなどが使われているが、車両タイプはなかなかの雰囲気。

 

日本でも古民家や地方移住で、使われなくなった古い家屋を補修して住んでみるといった試みを実践されている方もいらっしゃるかと思いますが、ダーチャのあるエリアは基本居住地域ではなく、家屋付き(倉庫しかない場合もあり)家庭菜園としての括りを越えないものです。ソ連時代のシステムとしてダーチャ自体に住所はなく、政府が各々のダーチャを番号で管理しており、ダーチャ全体が私有財産となった今でも自宅として登録できないシステムになっています。また、ほとんどのダーチャエリアでは電気は通っているものの、下水道が完備されていることはなし。井戸があるダーチャも稀、そもそも飲み水としての水道設備がないことがほとんどなので、実際にはかなり過酷な条件となっています。

「可愛いお家のある素敵な家庭菜園♡」という、ヨーロッパ風のおしゃれなイメージとはかけ離れています。

フラットで広々と開けた場所は国営の大規模農場として優先的に使用されてきた歴史があるので、一市民のためのダーチャは、点在する湖へ下がっていく傾斜地帯や大規模農場の間の谷間、市街地から比較的近くアクセスは良いものの、細い道に面して四角く区切られた殺風景な菜園が続くエリアなど、広大な土地の中に変にぎゅっと詰め込まれた感じがします。

 

ダーチャとは?

最初の思いつきから1年半、全く乗り気ではなかった夫に、ダーチャを持つと子供にも絶対に良い影響がある、自分の所有する土地で育てた野菜は有り難みが違う、在宅ワークで引きこもりがちなのは体に良くない・・と説き伏せつつ、自分でリサーチして良さそうな物件には『問い合わせしてくれる?』『あの物件電話してくれた?』攻撃を夫へ繰り返すことに。道が舗装されていないので、雨が続いた後や雪解けのシーズンは車で行くにはリスクがあり、内見するなら春から寒くなる前の秋までがベスト。なので、売り手側もこのシーズンにダーチャを売りに出すことが多いように思います。

 

最初から挫けそうになるものの。。


 このくらいなら許容範囲。ゴリゴリの轍や急斜面など、新車のセダンでは絶対に侵入したくないロケーション。。

 

初めて見に行った時には(その時初めてダーチャエリアに足を踏み入れた。。)時速10キロも出せないような「えぇえー、そこ行くの。。汗」とビビるレベルの深い轍のある細い未舗装の道をどんどん進んでいく光景。そしてその細い道に沿って想像よりずっと近い位置に建つ、明らかに傾いている煉瓦積みの小さな家や、ドリフのコントに出てきそうな、寄り掛かったらそのまま倒れそうな掘立のトイレ(中は数十センチしか深さのないただの穴。苦笑)など、これが現実・・という光景を目の当たりにすることになりました。その後は最初の衝撃が大きかった割にリアルな光景にも段々と慣れてくるもので、徐々に自分の許容範囲が定まっていきました。

慣れは本当にすごい人間の特質だと思います。適応能力(諦めて受け入れる能力)は強ければ強い程生きやすくなる!ということでもあるかと。。ウクライナはまだまだ適応能力を磨く必要があります。

 

『ダーチャ』、遂に購入へ。

           モグラが嫌うという辛子の苗を全体的に植えて春まで放置。一部に玉ねぎとニンニクを植えてみる。

 

最初の印象、立地、販売価格、受け渡しまでの条件、オーナー家族の人柄(ここはかなりのポイント)など総合的に考えて、ダーチャ購入を決めました。昨年9月に全ての書類を取り交わし、公的な手続きを終え、正式に私たちのダーチャとしての権利を取得しました。

 

                                   このテイスト、明らかに好きすぎて萌えます。。

 

ああでもないこうでもない、そっちは良くない、結局俺が全てやることになるんだろ!という諦めというか、恨み節の発言をしていた夫も、ダーチャの敷地内に自生している果樹の種類を確認したり、親切に対応してくれる前オーナーや周囲の所有者たちの人柄を見ているうちに、幼い頃の事を思い出したのか、意外に積極的に向き合うことにしたようです。私も、過去に全く経験していない菜園に関してまるで知識のない果樹や野菜の栽培方法など、ど素人にもかかわらず、「やってみたい!」という勢いだけでダーチャを購入するまでに至るという、行動力があるのか無鉄砲なのか分からないのですが、、既成事実を作ってしまったからにはやるしかない。といったところです

ウクライナの肥沃な黒土地帯。私のせいで、ダーチャ敷地内の植物全てが全滅することはないはず?!です。

 

 

『ロシアによる侵攻』というウクライナ最大の危機。終わりが見えない状況の中で。

       ペチカに焚べた木の枝。火の爆ぜる音と伝わる温もりはリラックス効果絶大。。

 

秋にニンニクと玉ねぎを植え込んで、ダーチャの来年の景色を想像していた昨年10月。小さな家を改装したいな。ソ連時代の雑貨を取り揃えて、雨水タンクの廻りやエントランスも綺麗にしたいな。などとぼんやり考えたり、菜園に関するyoutubeチャンネルを探ったり。

そんな中で、年明けにはいよいよロシア軍の動きが怪しくなり、戦争が始まるかも。。なんて、ちょっと冗談じゃありませんよ!という心境になるのも当然。といったところでした。遅くとも2月中には野菜の種を買い揃えなければと思いつつも、どうなるのだろう・・と初めから出鼻をくじかれる不安な状況。

ロシア侵攻があった2月24日。ダーチャの計画は全て頓挫し、もしかするとそのダーチャ自体も地雷やミサイルで破壊されるのではないだろうか。少なくとも今年の栽培はほぼ不可能だろうと諦めていました。

 

 

人生は『計画通りに』進まないもの。しかし、結局何とかなる。

    植物用の専用ライトでも光が弱い。種から育てた苗は全体的に徒長気味に。。

 

ロシア侵攻から1ヶ月は不安な中に押し込まれていましたが、3月末にはもしかするとダーチャに行けるかもしれないという希望が出てきたので、準備不足の中、種からの栽培を始めてワタワタとしながらも、失敗した種類があるものの色々と何とか成長。とりあえず植え付けも完了することができました。最初に植えたトマトが発芽した時はウルッとしてしまうくらい感傷的になったりしましたが、それらの苗も何とか成長して、現在は畑ですくすく育っています。

 

 

物価上昇がエグい。。こんな時はダーチャで育てた野菜は大切。

昨年から徐々に上がっていた食料品の価格が、ロシア侵攻によって更に上がっていますが、ガソリン価格が2倍に跳ね上がり、ガソリンスタンドは半数近くが閉鎖に追い込まれています、販売しているスタンドではだいぶ手前の場所から長蛇の列を見かけるのが日常化してしまいました。ダーチャは自宅からさほど遠くない所にあると言えども、頻繁に行くとなるとガソリン代が嵩んでしまいます。。ソ連時代の終わりをよく知る世代でその頃からダーチャと共に生活をしていた人々は、2月のロシア侵攻によって生活自体が一変したにもかかわらず、ダーチャへの情熱を失わずに今まで通り種を植えて、どうなるか分からない作付けのために準備していたことには本当に感服します。スームィでもロシア侵攻によって被害に遭われた方もいる一方、被害に遭わずに自宅に残った多くの人々は例年通りダーチャで野菜や果物の収穫を続けており、今年も準備万端です。ウクライナ人は本当にタフ!

 

 

採れたての野菜、自分で育てた充実さも加味されて最高な食材となる、だろう。

 じゃがいもにコロラド・バグと呼ばれる甲虫被害が出始めた。農薬を使う以外に今のところ対処する術はなし。。

 

新鮮な空気、風の音や鳥の声に触れながら作業するのは想像以上に気分が良いものです。やらなければいけないタイミングがあり、そのことで生活自体にもメリハリができそうですし、無心になって草むしりするのも実はとても気分転換ができるものだということに気づくことができました。何より太陽の下で陽を浴びることはとても大事なんだと今更強く思ったりもします。子供もスマホばかりを握っている生活から、気がつくとダーチャでギャーギャー言いながらもデバイスなしで遊んでいるので、やはり皆にとってダーチャ購入を決断した結果は良かったです。

 

 

     ダーチャで育てたグリンピースは驚くほど美味しい。ピースご飯が楽しみだ。

 

まだ作物を本格的に収穫するのは先ですが、青みが深くとても美味しいさやえんどうを卵炒めにして食べたり、酸っぱいさくらんぼをカッテージチーズに混ぜて食べたり。早速試してみましたが、少量でも摘みたてを食べることの充実感はリアルに違います。

 

ド素人の家庭菜園は始まったばかり。

小さい家の改装もしたいし、ご近所さんに無理と言われた井戸掘りの可能性も探ってみたい。やりたいことが多すぎて、知らないことが多すぎて、でもシーズンとなる実りの期限は案外短かい。大変な状況でスタートした私達のダーチャ、どっしりとした気持ちで取り組んでいこうと思います!

 

最後まで読んでいただきありがとうございました!

 

ウクライナ戦争は終わりが見えておらず、まだ不安な日々は続きますが、前を向いて生活していきます。引き続き、ここでの生活に関してブログにまとめていこうと思います!

 

日々の細々とした出来事は、Twitter @Sayaka399で発信しております。